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【中小規模の建設業界向け】1on1で人材定着・離職防止につなげる方法とポイント「その1」
2026.05.18
本コラム記事では、主に中小規模の建設会社の経営者・幹部・人事担当者向けに、1on1を活用して若手人材の定着、離職防止、現場責任者の育成を進める方法を、2部構成で解説しています。今回は「その1」になります。この機会にぜひご覧ください。
※「その2」のコラムに関しましては、下記リンク先からご覧ください。
1. 中小建設業で人材定着が重要になっている背景
中小規模の建設業において人材定着が重要になっている背景には、採用難が長期化していることに加え、現場を支える若手人材や中堅人材の離職が、工期、品質、安全、利益、受注対応力に直結するという経営上の構造があります。
建設業の仕事は、施工管理、現場作業、安全管理、工程管理、協力会社との調整、顧客対応、近隣対応、品質確認など、複数の業務が連動して成り立っており、一人の人材が定着しないだけでも、現場全体の負荷や管理コストが大きく変わります。
特に中小建設会社では、大手企業のように人材を大量採用し、一定の離職を前提として組織を回すことは難しく、入社した人材をいかに育て、いかに戦力化し、いかに長く働いてもらうかが、経営の安定性を左右します。
若手社員や若手職人が入社しても、現場の厳しさ、仕事の覚えにくさ、人間関係の難しさ、将来像の不透明さを感じたまま放置されれば、早期離職につながる可能性が高まります。
また、中堅社員や現場リーダーが離職すれば、単に作業者が一人減るだけではなく、若手を教える人、現場をまとめる人、顧客や協力会社との橋渡し役が失われるため、会社の組織力そのものが低下します。
これまでの建設業では、「現場で覚える」「先輩を見て学ぶ」「厳しい環境を乗り越えて一人前になる」という育成観が一定の役割を果たしてきました。
しかし、現在の採用環境では、昔ながらの育成方法だけでは若手人材の定着を実現しにくくなっています。
若手人材は、仕事の意味、成長の道筋、評価の基準、将来のキャリア、上司との関係性を重視する傾向があり、会社側がそれらを言語化して伝えなければ、本人は自分の将来を描きにくくなります。
中小建設会社の経営者・幹部に求められるのは、採用した人材を現場に配属して終わりにするのではなく、入社後の不安を把握し、成長課題を整理し、現場で孤立させない仕組みをつくることです。
その具体的な施策として有効なのが、経営者、幹部、現場責任者が社員と定期的に対話する1on1です。
1on1は、単なる雑談や人事面談ではなく、社員の状態を把握し、離職の兆候を早期に見つけ、成長支援と現場改善につなげるための経営管理の仕組みとして活用することが重要です。
2. 建設業界で離職が起こりやすい主な理由
建設業界で離職が起こりやすい理由は、給与や休日といった待遇面だけではなく、現場配属後の不安、教育不足、人間関係、仕事への適性不安、評価への不満、将来像の不透明さなどが複合的に重なっている場合が多くあります。
特に中小規模の建設会社では、現場が忙しいほど新人や若手に対する教育が後回しになりやすく、本人が何を覚えればよいのか、どの順番で成長すればよいのかを理解できないまま、日々の業務に追われてしまうことがあります。
現場経験の長い上司や先輩からすれば、道具の準備、朝礼後の動き方、危険箇所の確認、協力会社とのやり取り、現場の片付けなどは当たり前の行動かもしれません。
しかし、経験の浅い若手にとっては、何を優先すべきか、誰に確認すべきか、どこまで自分で判断してよいかが分からず、常に不安を抱えながら働いていることがあります。
この状態でミスが起き、上司や先輩から強く注意されると、本人は「何を改善すればよいのか」よりも、「自分はこの仕事に向いていないのではないか」と感じやすくなります。
建設現場では、安全や品質を守るために厳しい指導が必要な場面がありますが、指導の目的や改善方法が伝わらないまま言葉だけが強くなると、若手人材は萎縮し、質問や相談をしなくなります。
質問しなくなった若手は、表面的には問題なく働いているように見えることもありますが、実際には不安や不満を抱え込み、ある日突然退職を申し出ることがあります。
また、中堅社員や現場リーダーの離職理由は、若手とは異なる場合があります。
経験を積み、現場を任されるようになったにもかかわらず、給与、役職、裁量、責任、評価のバランスが取れていないと感じると、本人は会社に対する納得感を失いやすくなります。
さらに、後輩指導、協力会社との調整、工程管理、顧客対応まで任されているにもかかわらず、会社から十分な支援や評価がなければ、「責任だけが重くなっている」と感じるようになります。
建設業の離職防止では、退職の申し出を受けてから理由を聞くのでは遅い場合があります。
本当に重要なのは、社員が退職を考える前の段階で、仕事への不安、人間関係の悩み、役割への不満、将来への迷いを把握することです。
そのためには、日常の業務指示や現場確認とは別に、社員が本音を話せる1on1の場を設ける必要があります。
3. 若手職人・若手社員が不安を抱えやすいポイント
中小建設会社で若手職人や若手社員が不安を抱えやすいポイントは、単に仕事が大変であることだけではなく、現場で自分が何を求められているのか、どのように成長すればよいのか、誰に相談すればよいのかが見えにくいことにあります。
建設業の仕事は、現場ごとに状況が変わります。
建築、土木、設備、内装、外装、専門工事など業種によって業務内容は異なりますが、いずれの現場でも、安全確認、工程理解、道具や資材の扱い、作業手順、報告連絡相談、協力会社との関係性が重要になります。
経験のある社員にとっては自然に判断できることでも、若手にとっては一つひとつが判断の連続です。
たとえば、どのタイミングで上司に確認すべきか、どこまで自分で作業してよいか、現場で分からないことを誰に聞けばよいか、ミスをしたときにどのように報告すべきかが分からない場合、本人は常に緊張した状態で働くことになります。
また、建設現場では、複数の会社や職種が関わるため、若手にとっては人間関係の複雑さも大きな負担になります。
自社の上司や先輩だけでなく、協力会社、元請け、職長、施主、近隣住民など、多様な関係者がいる中で、どのように振る舞えばよいのか分からず、精神的な負荷を感じることがあります。
さらに、若手人材は、自分の成長が見えにくいことにも不安を抱えます。
建設業の技術や現場管理力は一朝一夕で身につくものではなく、一人前になるまでに一定の期間が必要です。
しかし、会社側が成長ステップを示さなければ、本人は「自分は成長しているのか」「いつまで雑用のような仕事が続くのか」「将来どのような役割を担えるのか」と不安を感じるようになります。
このような不安を放置すると、本人は仕事そのものに価値を見出しにくくなり、早期離職につながる可能性があります。
1on1では、若手の不安を抽象的に聞くだけでなく、現場での困りごと、技術習得の状況、人間関係、相談しやすさ、将来の希望を具体的に確認する必要があります。
若手人材が「自分のことを見てくれている」「分からないことを相談してよい」「次に何を覚えればよいか分かる」と感じられる状態をつくることが、人材定着の第一歩になります。
4. 中堅社員・現場リーダーの離職リスクを見落とさない
中小建設会社が人材定着を考える際には、若手の早期離職だけでなく、中堅社員や現場リーダーの離職リスクにも注意を向ける必要があります。
中堅社員は、現場経験があり、会社のやり方を理解し、若手を教え、協力会社や顧客との関係性も持っているため、会社にとって非常に重要な存在です。
そのような人材が離職すると、現場の即戦力が減るだけでなく、若手育成、工程管理、顧客対応、社内の技術継承にも大きな影響が出ます。
中堅社員の離職は、若手の離職以上に経営への影響が大きい場合があります。
しかし、経営者や幹部は、中堅社員に対して「もう一人前だから大丈夫」「現場を任せているから問題ない」と考え、十分な対話を行っていないことがあります。
実際には、中堅社員ほど責任と負担の間で悩みやすい立場にあります。
若手の面倒を見なければならない一方で、自分の作業もこなさなければならず、現場責任者や管理職のような役割を担っているにもかかわらず、明確な役職や評価が与えられていない場合があります。
また、中堅社員は、経営者と若手の間に立つため、現場の不満を受け止めながら、会社の方針も伝える必要があります。
この役割は非常に重要ですが、会社から支援されていないと感じると、本人は孤立感を抱きやすくなります。
さらに、同業他社や元請け、協力会社から声がかかることもあり、自社での将来像が見えなければ、転職や独立を考える可能性も高まります。
中堅社員の離職を防ぐには、待遇面の見直しだけでなく、本人が会社の中でどのような役割を期待されているのか、今後どのようなキャリアがあるのか、どのような支援を受けられるのかを明確に伝えることが大切です。
1on1では、中堅社員に対して、現場での負担感、若手指導の悩み、評価への納得感、将来の役割、会社への要望を確認する必要があります。
特に、現場リーダー候補には、作業者としての技術だけでなく、管理者としての成長課題を一緒に整理することが重要です。
中堅社員に対する1on1は、離職防止だけでなく、次世代の現場責任者や管理職を育てるための重要な施策になります。
5. 1on1が建設業の人材定着に有効な理由
1on1が建設業の人材定着に有効な理由は、社員が退職を決意する前に、経営者、幹部、現場責任者が本人の変化や不満に気づき、早い段階で支援や改善を行えるようになるからです。
多くの離職は、ある日突然起こっているように見えて、実際には小さな不満や違和感が時間をかけて積み重なった結果として表面化します。
たとえば、現場で質問しにくい、上司の指示が分かりにくい、評価されている実感がない、将来の収入や役割が見えない、体力的な負担が大きい、会社に相談しても変わらないと感じるなど、最初は小さな不満であっても、放置されれば離職理由になります。
建設業では、現場で弱音を吐きにくい雰囲気が残っている会社もあり、経営者や上司が「何も言ってこないから問題ない」と判断してしまうことがあります。
しかし、社員が何も言わないことは、必ずしも満足していることを意味しません。
むしろ、相談しても意味がない、言えば評価が下がる、忙しい上司に迷惑をかけたくないと感じているからこそ、黙っている場合もあります。
1on1は、こうした沈黙を防ぎ、社員が安心して自分の状態を話せる場をつくるための仕組みです。
また、1on1には、成長実感を高める効果もあります。
建設業の仕事は、技術や現場対応力が身につくまでに時間がかかるため、若手社員は自分がどれだけ成長しているのかを実感しにくいことがあります。
そのようなときに、上司や現場責任者が「以前より報告が早くなった」「道具や資材の準備ができるようになった」「安全確認の視点が身についてきた」「協力会社とのやり取りが落ち着いてきた」と具体的に伝えれば、本人は自分の成長を認識できます。
成長実感は、仕事を続ける理由になります。
反対に、どれだけ努力しても認められず、次の目標も示されない状態では、本人は努力の方向性を見失います。
さらに、1on1は、経営者や幹部が現場の課題を把握するための情報源にもなります。
複数の社員から同じような不満が出ている場合、それは個人の問題ではなく、教育体制、現場配置、評価制度、上司の関わり方に構造的な課題がある可能性があります。
1on1を継続すれば、建設会社は離職防止を場当たり的な引き止めではなく、組織改善の一部として進められるようになります。
6. 面談と1on1の違いを正しく理解する
中小建設会社が1on1を導入する際に最初に整理すべきことは、1on1を従来型の面談、説教、業務確認、評価面談と混同しないことです。
一般的な面談は、会社側が社員に対して評価を伝えたり、注意点を指摘したり、今後の方針を説明したりする場になりやすく、どうしても上司から部下への一方向のコミュニケーションになりがちです。
一方、1on1は、社員本人の考え、悩み、成長課題、将来の希望を引き出し、本人の成長を支援するための対話の場です。
つまり、1on1の主役は上司ではなく、社員本人です。
建設業では、現場責任者や上司が日頃から指示や注意を行う立場にあるため、1on1でも無意識に指導や説教が中心になってしまうことがあります。
もちろん、安全や品質を守るための指導は必要です。
しかし、1on1の場で重要なのは、まず本人が何を感じ、何に困り、どのように成長したいと考えているのかを聞くことです。
たとえば、若手社員が「現場で質問しづらい」と話したときに、「そんなことを言わずに自分から聞け」と返してしまえば、本人はそれ以上本音を話さなくなります。
この場合に必要なのは、「どの作業のときに聞きづらいのか」「誰に対して聞きづらいのか」「どのタイミングなら確認しやすいのか」を一緒に整理することです。
また、1on1で話された内容をすぐに評価や処遇に結び付けないことも重要です。
社員が本音を話した結果、不利になると感じれば、1on1は形式的な場になり、会社が聞きたい答えだけを話す時間になってしまいます。
経営者・幹部は、1on1を「会社が社員を管理する場」ではなく、「社員の状態を理解し、必要な支援を考える場」として設計する必要があります。
そのうえで、業務指導、評価面談、1on1を明確に分けて運用すれば、社員は安心して自分の考えを話しやすくなります。
この区別ができている会社ほど、1on1は単なる制度ではなく、人材定着のための有効なコミュニケーション基盤になります。
7. 建設業における1on1の実施目的とは
建設業における1on1の実施目的は、社員の不満を聞くだけではなく、離職防止、人材育成、現場責任者育成、組織改善を同時に進めることにあります。
まず、離職防止の観点では、社員が退職を考える前の段階で、仕事上の不安、人間関係の悩み、評価への不満、体力的な負担、会社への不信感を把握することが重要です。
退職の意思が固まってから面談をしても、本人の気持ちを変えることは難しく、結果的に条件面で引き止めるだけの対応になりがちです。
そのため、1on1は退職防止の最終手段ではなく、離職につながる小さな兆候を早期に見つける予防策として位置づけるべきです。
次に、人材育成の観点では、1on1を通じて本人の習熟度を確認し、次に身につけるべき技術、資格、現場対応力、報告力を明確にすることができます。
建設業の仕事は、職種や現場によって必要な能力が異なり、何となく現場に入っているだけでは、自分がどの段階にいるのか分かりにくい面があります。
そこで、1on1の中で「今できること」「まだ不安なこと」「次に任せたいこと」を整理すれば、本人は成長の道筋を理解しやすくなります。
さらに、現場責任者育成の観点でも、1on1は重要です。
将来の職長、施工管理者、現場リーダー、管理職候補となる人材には、技術だけでなく、工程管理、安全管理、協力会社との調整、顧客対応、若手指導、原価意識を身につけてもらう必要があります。
しかし、これらの能力は現場経験だけで自然に身につくものではなく、経営者や幹部が期待する役割を言語化し、定期的に対話しながら育成する必要があります。
最後に、組織改善の観点では、1on1で得られた声をもとに、教育体制、現場配置、評価制度、コミュニケーション方法を見直すことができます。
複数の社員から「新人教育が属人的で分かりにくい」「現場責任者によって教え方に差がある」「評価基準が見えにくい」といった声が出る場合、それは個人の不満ではなく、会社として改善すべき仕組みの課題です。
このように、1on1の目的を明確にすれば、建設会社は社員との対話を単なる人間関係づくりにとどめず、経営改善と人材戦略の実行手段として活用できます。
8. 現場責任者・上司が意識すべき聞き方のポイント
建設会社における1on1の成否は、経営者や人事担当者だけでなく、日々社員と接している現場責任者や上司の聞き方に大きく左右されます。
現場責任者は、工期、品質、安全、原価、顧客対応を担う立場であり、日常的には指示や注意を行う場面が多くあります。
そのため、1on1の場でも、つい指導や説教が中心になってしまい、社員の本音を聞く前に上司側の意見を伝えてしまうことがあります。
しかし、1on1で最も重要なのは、相手の話を遮らず、相手が何に困っているのかを具体的に理解することです。
たとえば、若手社員が「現場でうまく動けない」と話した場合、その言葉だけを聞いて「もっと周りを見ろ」と返すのではなく、「どの作業のときに動き方が分からないのか」「誰の指示が分かりにくいのか」「朝の段取り説明で理解できているのか」を確認する必要があります。
問題を具体化しなければ、本人も改善方法が分からず、上司も的確な支援ができません。
また、現場責任者は、社員の言葉だけでなく、表情、声のトーン、反応の変化にも注意を払う必要があります。
「大丈夫です」と答えていても、明らかに元気がない、以前より発言が減った、現場で孤立している、遅刻や欠勤が増えた、ミスが続いているといった変化がある場合には、本人が何かを抱えている可能性があります。
このような変化を早めに把握するためにも、1on1は定期的に実施することが重要です。
現場責任者や上司が意識すべき聞き方は、相手を問い詰める聞き方ではなく、状況を一緒に整理する聞き方です。
「なぜできないのか」と聞くと、相手は責められているように感じますが、「どこでつまずいているのか一緒に確認しよう」と伝えれば、相談しやすい雰囲気が生まれます。
さらに、現場責任者は、1on1で出た相談を自分一人で抱え込まないことも大切です。
人間関係、待遇、配置、評価、メンタル面の問題など、現場責任者だけでは解決できないテーマについては、経営者や幹部と連携して対応する必要があります。
1on1を通じて、現場責任者が部下の状態を把握し、必要に応じて会社全体で支援する流れを作ることが、中小建設会社の組織力を高めることにつながります。
この続きは「その2」のコラムにて解説します。
9. 参考資料
中小企業庁|中小企業者・小規模企業者の定義、建設業を含む中小企業向け記事における読者ターゲットの前提整理。
厚生労働省|人材確保等支援助成金、雇用管理制度・雇用環境整備助成コース、職場活性化制度、1on1ミーティング導入に関する考え方。
厚生労働省|1on1ミーティングの定義、上司と部下による一対一の対話、部下の成長と成果を支援する面談設計の考え方。
厚生労働省|職業能力開発計画事例、企業における人材育成方針、従業員の能力開発、キャリア形成支援に関する考え方。
厚生労働省|建設業における職業能力開発計画事例、技術・品質向上、従業員が働きがいを感じられる職場環境づくりに関する考え方。
厚生労働省|建設業における人材育成、安全施工、品質向上、工事コスト削減、継続的な企業運営に関する考え方。
厚生労働省|建設業の人材確保・育成、若者が希望を持って入職できるキャリアパスの見える化、技能講習・特別教育・技能検定に関する考え方。
厚生労働省|建設現場における安全の中核を担う人材育成、安全衛生教育、OJT、現場安全パトロール、安全衛生委員会に関する事例。
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