【人材派遣業界の経営・採用】2026年上半期の振り返りと下半期に向けたポイント「その1」
2026.06.10
本コラム記事では、人材派遣会社の経営者・幹部向けに、2026年上半期時点の人材不足、派遣スタッフ採用、賃金上昇、法令対応、営業戦略、定着支援、社内人材育成を振り返り、下半期に向けた経営・採用強化のポイントを2部構成で解説しています。今回は「その1」をお送りしています。この機会にぜひご覧ください。
1.2026年上半期の人材派遣業界を振り返る視点
2026年上半期の人材派遣業界は、派遣先企業の人材不足が続く一方で、派遣会社自身も派遣スタッフ採用、社内人材育成、賃金上昇、法令対応、派遣料金の見直しに向き合う必要が高まった時期といえます。
人材派遣会社は、製造業、物流業、事務職、販売職、コールセンター、医療・介護周辺、軽作業、専門職など、幅広い業界の人手不足を支える存在です。
しかし、派遣先企業からの相談が増えても、派遣スタッフを十分に確保できなければ、求人案件は売上に変わりません。
そのため、人材派遣業界の経営では、「案件をどれだけ獲得できるか」だけでなく、「その案件に合う人材をどれだけ採用し、稼働させ、定着させられるか」が重要になっています。
厚生労働省は、労働者派遣事業や職業紹介事業などについて、雇用の需要と供給を迅速、円滑かつ的確に結合させるため、民間の派遣会社や職業紹介会社が活躍できる環境を整えると説明しています。
人材派遣会社は、単なる人員供給会社ではなく、労働市場の需給調整を担う社会的役割を持つ事業者です。
一方で、2026年上半期の人材派遣会社には、派遣スタッフから選ばれる採用力、派遣先企業から信頼される営業力、適正な契約・労務管理を行う運営力が同時に求められました。
特に中小規模の人材派遣会社では、営業担当者、コーディネーター、管理担当者が限られているため、採用・営業・管理が分断されると、すぐに現場運営が不安定になります。
下半期に向けては、派遣スタッフの登録数だけを追うのではなく、応募から稼働、初回更新、長期定着までを一つの経営導線として見直すことが重要です。
また、派遣先企業に対しても、単に「何人派遣できます」と提案するのではなく、採用難、定着難、職場環境、教育体制、料金水準まで踏み込んだ課題解決型の提案が求められます。
2026年下半期の人材派遣業界では、採用力、定着支援、法令対応、派遣料金改善、社内人材育成を一体で進める会社ほど、安定した成長を実現しやすくなると考えられます。
2.人材不足は派遣需要を生む一方で、派遣スタッフ採用を難しくしている
人材派遣会社にとって、人材不足は派遣需要を生み出す大きな要因です。
製造現場で作業者が足りない、物流現場で人員が確保できない、事務部門で欠員が出ている、販売・サービス現場でシフトが埋まらないといった課題が増えれば、派遣会社への相談は増えやすくなります。
しかし、人材不足は派遣会社にとって追い風だけではありません。
派遣スタッフとして働く人材そのものも不足しているため、派遣先から案件を獲得しても、求職者を確保できずに稼働へつながらないケースが増えやすくなります。
中小企業庁の2025年版中小企業白書では、2023年と2024年を比較して、中小企業の人材不足感は高止まりしており、従業員規模が大きい事業者ほど人材不足感が強い傾向にあると整理されています。
この状況は、人材派遣会社の営業戦略に大きな影響を与えます。
以前であれば、派遣先案件を多く獲得し、求人媒体に掲載すれば一定の登録者が集まり、稼働につながるケースもありました。
しかし、現在は求人を出せば人が集まるという前提が崩れており、派遣スタッフが複数の求人や働き方を比較しながら、自分に合う仕事を選ぶ傾向が強まっています。
そのため、人材派遣会社は、派遣先企業の案件を広く獲得するだけではなく、自社が採用できる人材層と、派遣先企業のニーズが重なる領域を見極める必要があります。
たとえば、製造派遣に強い会社であれば、未経験者でも始めやすい工程、資格者が必要な工程、夜勤がある工程、短期ニーズが多い工程を分けて整理することが重要です。
事務派遣に強い会社であれば、一般事務、営業事務、経理補助、コールセンター、データ入力など、職種ごとに必要なスキルと求職者層を分けて考える必要があります。
人材不足の時代には、「案件があるから採用する」のではなく、「採用できる人材層を理解したうえで案件を獲得する」という順番が重要です。
下半期に向けては、営業部門と採用部門が連携し、どの業界、どの職種、どのエリア、どの勤務条件であれば自社が勝てるのかを再設計することが求められます。
3.派遣スタッフ採用は登録数ではなく稼働率で評価する
人材派遣会社では、登録者数を採用成果の指標として扱うことがあります。
もちろん、登録者数は採用母集団を把握するうえで重要な数字です。
しかし、登録者が増えても、面談につながらず、案件紹介にも進まず、実際の稼働に至らなければ、売上や利益にはつながりません。
2026年下半期に向けては、登録者数だけでなく、応募後連絡率、面談率、案件紹介率、職場見学率、就業決定率、初日出勤率、初回更新率までを一連の指標として見る必要があります。
応募数は多いのに面談率が低い場合は、応募後の初回連絡が遅い、面談候補日が合わない、応募者の希望と求人内容が合っていない可能性があります。
面談率は高いのに就業決定率が低い場合は、登録者の希望条件と紹介案件の条件にズレがあるか、コーディネーターの案件説明が十分でない可能性があります。
就業決定率は高いのに初回更新率が低い場合は、職場見学時の説明、派遣先の受け入れ体制、初日フォロー、就業後の相談対応に課題がある可能性があります。
派遣スタッフ採用は、求人広告を出して応募を集めるだけでは完結しません。
応募から登録、面談、案件紹介、職場見学、就業決定、初日出勤、初回更新までを一つの採用プロセスとして設計し、どこで離脱が起きているかを把握することが重要です。
また、派遣スタッフは、給与や勤務地だけでなく、勤務時間、職場環境、仕事内容の分かりやすさ、担当者の対応、就業後のフォロー体制も見ています。
そのため、求人原稿では、時給や勤務地だけを強調するのではなく、仕事内容、未経験者への教育、職場の雰囲気、残業の有無、休憩環境、初日の流れまで具体的に伝える必要があります。
下半期の人材派遣会社は、登録者を増やす採用から、稼働と定着につながる採用へ転換することが重要です。
4.賃金上昇を前提にスタッフ時給と派遣料金を見直す
2026年下半期の人材派遣会社にとって、賃金上昇への対応は避けられない経営課題です。
厚生労働省は、令和7年度の地域別最低賃金について、全国加重平均額が前年度から66円引き上げられ、1,121円になるとの答申を取りまとめています。
最低賃金の上昇は、派遣スタッフの時給水準だけでなく、派遣先企業との料金交渉にも大きく影響します。
派遣スタッフは、派遣求人だけを比較しているわけではありません。
アルバイト、パート、契約社員、直接雇用の求人、業務委託、副業など、複数の働き方と比較したうえで、応募する仕事を選んでいます。
そのため、派遣求人の時給が地域相場や同職種の直接雇用求人と比べて見劣りする場合、応募数は伸びにくくなります。
一方で、スタッフ時給を引き上げるだけでは、派遣会社の粗利率が下がり、採用費、管理費、教育訓練費、コーディネーターのフォロー工数を確保しにくくなります。
つまり、賃金上昇への対応は、スタッフ時給だけの問題ではなく、派遣料金、粗利率、営業戦略、派遣先との関係性を含めた経営課題です。
派遣先企業に対しては、最低賃金の上昇、採用競争の激化、募集単価の上昇、スタッフ定着支援に必要なフォロー工数、教育訓練や労務管理にかかるコストを丁寧に説明する必要があります。
特に長期取引先に対しては、「値上げをお願いする」という姿勢だけではなく、「安定稼働できる人材を確保し続けるために、派遣料金の見直しが必要である」と説明することが重要です。
また、派遣料金の交渉では、単に時給上昇分を転嫁するだけでなく、定着率、欠勤率、初回更新率、教育実施状況、フォロー体制など、自社が提供している付加価値を見える化する必要があります。
下半期に向けて、人材派遣会社は、スタッフ時給を上げる採用施策と、派遣料金を見直す営業施策を同時に進める必要があります。
この両方を連動できる会社ほど、採用競争に対応しながら、収益性を維持しやすくなります。
5.法令対応と適正運営は信頼獲得の土台になる
人材派遣業界では、法令対応と適正運営が事業継続の土台になります。
労働者派遣事業は許可制のもとで運営される事業であり、派遣契約、就業条件明示、派遣元管理台帳、教育訓練、キャリア形成支援、同一労働同一賃金、個人情報管理など、多くの実務対応が求められます。
厚生労働省は、「労働者派遣事業関係業務取扱要領」を公開しており、令和8年5月14日以降版では、労働者派遣事業の意義、適用除外業務、派遣元事業主や派遣先の講ずべき措置、労働者派遣契約、事業報告などが整理されています。
中小規模の人材派遣会社では、営業担当者が案件獲得を優先するあまり、派遣先業務の確認、契約条件の整理、就業条件の説明、派遣スタッフへの事前案内が不十分になることがあります。
しかし、こうした基本対応が曖昧になると、派遣スタッフの不満、派遣先との認識違い、契約管理上のリスクにつながります。
法令対応は、単なる事務作業ではありません。
派遣スタッフに対して、どのような条件で働くのかを明確に伝えることは、安心して就業してもらうための重要な採用・定着施策です。
派遣先企業に対して、契約内容や派遣可能業務を適切に確認することは、トラブルを防ぎ、長期的な信頼関係を築くための営業基盤です。
また、適正運営を徹底している会社は、派遣先企業から見ても安心して取引しやすい存在になります。
派遣先企業も、派遣法や労務管理上のリスクを意識するようになっており、単に料金が安い派遣会社よりも、適正に運営している派遣会社を選ぶ傾向が強まっています。
下半期に向けては、営業、採用、管理の各部門が、法令対応を自分ごととして理解し、業務フローの中に組み込むことが重要です。
適正運営は守りの施策であると同時に、派遣スタッフと派遣先企業から信頼されるための攻めの経営基盤でもあります。
6.派遣先開拓は業種特化・職種特化で勝ち筋を明確にする
人材派遣会社が2026年下半期に営業成果を高めるためには、派遣先開拓の方針を明確にする必要があります。
人手不足が続く中では、さまざまな業界から人材ニーズが寄せられますが、すべての業界や職種に広く対応しようとすると、採用、マッチング、教育、管理の難易度が急激に高まります。
特に中小規模の人材派遣会社では、限られた営業担当者とコーディネーターで事業を運営しているため、対応領域を広げすぎると、案件理解もスタッフフォローも浅くなりやすいです。
そのため、下半期に向けては、業種特化、職種特化、地域特化のいずれかを軸にして、自社の勝ち筋を明確にすることが重要です。
製造業に強い会社であれば、組立、検査、機械オペレーター、フォークリフト、倉庫内作業など、職種別に求人訴求とスタッフ教育を整えられます。
事務職に強い会社であれば、一般事務、営業事務、経理補助、総務補助、データ入力など、求職者のスキルレベルに応じた案件紹介がしやすくなります。
物流や軽作業に強い会社であれば、短期・長期、日勤・夜勤、単発・固定勤務、未経験可否など、働き方別に採用導線を設計できます。
特化領域を持つことで、求人原稿の表現が具体的になり、コーディネーターの面談品質も高まり、派遣先企業への提案も深くなります。
派遣先企業から見ても、自社の業界や現場の事情を理解している派遣会社は、単なる人員供給会社ではなく、採用・定着のパートナーとして見えます。
下半期の営業では、案件数を広げることよりも、自社が採用できる人材層と相性のよい派遣先を深く開拓することが重要です。
その結果、派遣スタッフのミスマッチが減り、定着率が高まり、派遣先との継続取引にもつながりやすくなります。
7.派遣スタッフの定着支援が収益性を左右する
人材派遣会社の収益は、派遣スタッフの稼働によって成り立ちます。
派遣スタッフが就業を開始しても、短期間で離職してしまえば、再募集、再面談、再紹介、派遣先対応、契約調整が必要になり、営業担当者やコーディネーターの工数が大きく増えます。
そのため、派遣スタッフの定着支援は、スタッフ満足度を高める施策であると同時に、収益性を守る経営施策でもあります。
下半期に向けては、就業決定後のフォローを属人的な対応にせず、仕組みとして整える必要があります。
就業開始前には、勤務開始時刻、集合場所、持ち物、服装、担当者名、職場の雰囲気、初日の流れを具体的に伝えることが重要です。
就業初日後には、仕事内容が事前説明と合っているか、職場で質問しやすいか、困っていることがないかを確認する必要があります。
1週間後には、業務に慣れてきたか、人間関係に不安がないか、勤務条件に違和感がないかを確認します。
1か月後や初回更新前には、継続意向、派遣先評価、本人の希望、次のキャリア希望を整理することが望ましいです。
派遣スタッフは、就業開始直後に小さな不安を抱きやすいです。
仕事内容が思っていたより難しい、職場で質問する相手が分からない、休憩の取り方が分からない、作業スピードについていけない、通勤が想定より負担になっているといった小さな不安が、早期離職につながることがあります。
人材派遣会社が早い段階で不安を拾い、必要に応じて派遣先と調整できれば、離職を防げる可能性は高まります。
定着支援は、派遣スタッフに寄り添うだけでなく、派遣先企業の現場安定にも貢献します。
そのため、下半期は、定着支援をコーディネーター任せにせず、営業担当者、派遣先担当者、管理部門が連携して進めることが重要です。
8.営業担当者とコーディネーターの連携を仕組み化する
人材派遣会社では、営業担当者とコーディネーターの連携がマッチング品質を大きく左右します。
営業担当者が派遣先から案件を獲得しても、コーディネーターが仕事内容や職場環境を十分に理解していなければ、派遣スタッフへの説明が浅くなります。
反対に、コーディネーターが登録者の希望や不安を丁寧に把握していても、営業担当者が派遣先に条件調整を行わなければ、マッチングの精度は高まりません。
そのため、下半期に向けては、営業担当者とコーディネーターの情報共有を仕組み化することが重要です。
共有すべき情報は、仕事内容、必要スキル、勤務時間、残業有無、職場の雰囲気、指揮命令者の特徴、休憩環境、制服、通勤方法、職場見学時の注意点、過去に定着した人材の特徴、過去に離職した理由などです。
求人票に書かれている基本情報だけでは、派遣スタッフに十分な説明はできません。
現場のリアルな情報を把握している会社ほど、スタッフの不安を減らし、就業後のミスマッチを抑えやすくなります。
また、スタッフ側の情報も営業担当者に共有する必要があります。
希望勤務地、希望時給、勤務可能時間、家庭事情、健康面の配慮、経験職種、苦手業務、長期就業意向、将来希望などを把握したうえで、派遣先に必要な調整を行うことが重要です。
営業担当者とコーディネーターが分断されている会社では、派遣先の情報とスタッフの情報が十分に結びつかず、結果としてミスマッチが起きやすくなります。
下半期は、担当者個人の会話だけに頼るのではなく、案件情報シート、面談記録、フォロー履歴、離職理由の記録を活用し、組織として情報を蓄積する必要があります。
部門間連携を仕組み化できる会社ほど、採用難の時代でもマッチングの質を安定させやすくなります。
9.派遣スタッフ採用では初動スピードと説明品質を両立する
派遣スタッフ採用では、応募後の初動スピードが非常に重要です。
求職者は複数の求人に同時応募していることが多く、最初に連絡が来た会社、最初に面談設定ができた会社、最初に条件を分かりやすく説明してくれた会社に気持ちが向きやすくなります。
そのため、応募後の連絡が遅いだけで、面談前に離脱される可能性が高まります。
特に軽作業、事務、販売、コールセンター、短期派遣、日勤求人などでは、求職者の比較検討スピードが速く、初動対応の差が採用成果に直結します。
下半期に向けては、応募当日の連絡、面談日程の即時提示、オンライン面談、電話面談、チャット連絡、事前ヒアリングフォームなどを活用し、応募者が離脱しにくい導線を作ることが重要です。
ただし、スピードだけを優先し、仕事内容や条件の説明が雑になると、就業後のミスマッチや早期離職につながります。
そのため、人材派遣会社には、早く連絡しながらも、必要な情報を正確に伝える仕組みが求められます。
たとえば、求人ごとの説明テンプレート、よくある質問集、職場見学前チェックリスト、面談時の希望条件確認シートを整えておくと、対応スピードと説明品質を両立しやすくなります。
また、応募者対応を担当者の経験だけに頼ると、担当者によって対応品質に差が出ます。
新人コーディネーターでも一定水準の対応ができるように、応募受付から面談設定、案件紹介、職場見学案内までの流れを標準化することが重要です。
派遣スタッフ採用では、早い会社が有利ですが、早いだけでは長続きしません。
下半期は、スピードと丁寧さを両立し、応募者が安心して就業判断できる採用体験を作ることが重要です。
この続きは「その2」のコラムにて解説いたします。
10. 参考資料
厚生労働省|労働者派遣事業・職業紹介事業・募集情報等提供事業等
厚生労働省|労働者派遣事業関係業務取扱要領
厚生労働省|労働者派遣事業関係業務取扱要領(令和8年5月14日以降)
厚生労働省|労働者派遣事業関係業務取扱要領(※令和8年5月施行分)の改正の概要
厚生労働省|地域別最低賃金の全国一覧
厚生労働省|全ての都道府県で地域別最低賃金の答申がなされました
中小企業庁|2025年版 中小企業白書(HTML版)
中小企業庁|2025年版 中小企業白書(HTML版) 第4節 人材戦略
厚生労働省|確かめよう労働条件:労働条件に関する総合情報サイト
厚生労働省|職業紹介事業について
11. 派遣会社の経営・人材採用・募集活性化・1on1・人材定着・離職防止・人的資本経営などに関する無料相談とお問い合わせ
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