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【不動産業界向け】1on1で管理職育成を推進する方法とポイント

2026.03.27

 

 

不動産業を展開する中小企業の経営者・幹部・人事担当者に向けて、本コラム記事では1on1を活用した管理職育成の考え方と実践方法を体系的に整理いたします。

不動産業は、全産業の中でも法人数の比重が大きい重要産業であり、事業環境の変化、顧客ニーズの多様化、人材不足への対応を同時に求められるため、従来の属人的な育成だけでは管理職の力量形成が追いつきにくくなっています。

そこで、離職防止、定着、教育、業績向上を一体で進める経営施策として、1on1の導入と定着をどのように進めるべきかを、不動産業の仕事特性に即して解説いたします。 

 

1. 不動産業界で今、1on1による管理職育成が求められる理由

不動産業の経営において、1on1による管理職育成が強く求められている背景には、市場そのものの重要性が大きい一方で、現場を支える人材の確保と育成が、以前にも増して経営課題の中心へ移ってきているという構造変化があります。国土交通省の白書では、不動産業は全産業の売上高比率や、法人数比率が高く、重要な産業の一つと位置づけられており、住宅、商業、管理、流通という幅広い事業領域を抱えるからこそ、管理職一人ひとりの判断や育成力が、企業の業績や将来の競争力に直結しやすい産業だといえます。

加えて、不動産業の現場では、売買仲介、賃貸仲介、賃貸管理、建物管理、開発、仕入れなど、同じ会社の中でも仕事の性質が大きく異なり、それぞれの現場で求められる行動様式、対人折衝力、案件管理力、収益感覚が変わるため、管理職育成を一律の研修だけで済ませることが難しいという事情があります。その結果として、営業数字を上げてきた優秀なプレーヤーを管理職に登用したとしても、部下の状態を把握しながら育てる力、対話を通じて仕事の意味づけを行う力、離職防止と成果創出を両立させる力が備わらなければ、組織としての持続的な成長につながりにくくなります。

さらに、人口減少や少子高齢化、消費者価値観の変化、働き方の多様化といった社会環境の変化により、不動産業の現場でも、以前のように「背中を見て育てる」「数字を追わせれば育つ」という考え方だけでは通用しにくくなっています。国土交通省の不動産業分野に係る指針でも、社会経済環境の変化を踏まえた経営力向上、人材育成、業務効率化への対応が求められており、不動産業の経営は、物件や顧客だけではなく、人材の能力形成そのものを戦略的に扱う段階へ入っていると考えるべきです。

そこで重要になるのが、評価面談とは異なる継続的な対話の仕組みとしての1on1です。厚生労働省の資料では、1on1は上司と部下が定期的に実施する対話の時間であり、従来の評価面談とは異なって、部下の話を聞くことを主目的とした日常的かつ継続的なコミュニケーション手法として説明されています。この定義に沿って考えると、1on1は単なる面談制度ではなく、管理職が部下の仕事観、悩み、成長課題、将来志向を理解しながら、適切な支援行動を身につけていくための実践の場でもあります。

つまり、不動産業における1on1の価値は、部下のためだけに存在するものではなく、管理職自身を育てる仕組みとしても大きい点にあります。定期的な対話を通じて、管理職は傾聴、質問、整理、助言、承認、期待形成といったマネジメントの基本動作を繰り返し実践することになり、その積み重ねが、属人的な指導から再現性のある育成へと組織を移行させます。不動産業のように、人と案件の両方を動かす産業では、この再現性こそが経営の安定性を高める鍵になります。

 

2. 営業現場・賃貸管理・売買仲介で異なる管理職課題とは

不動産業における管理職育成を考える際にまず押さえるべきなのは、「不動産業」という一つの言葉の中に、実際には性質の異なる複数の仕事が含まれており、それぞれの現場で管理職に求められる役割も大きく異なるという点です。この前提を無視して1on1を設計すると、面談そのものは実施されても、現場の課題と育成テーマが噛み合わず、管理職にも部下にも手応えが残らないまま制度だけが残ることになりやすいです。

たとえば、売買仲介の現場では、案件化までの商談力、顧客との信頼形成、物件提案の精度、資金計画の理解、成約までの進捗管理といった力が求められるため、管理職の1on1も、数字の確認にとどまるのではなく、受注までのプロセス、失注理由、提案の質、案件の停滞要因を整理しながら、営業担当者の思考の癖や行動の優先順位を整える場として機能させる必要があります。ここでは、結果だけを問う対話ではなく、どのような仮説を持ち、どの顧客にどう向き合ったのかを言語化させる支援が重要になります。

一方で、賃貸管理や建物管理の領域では、短期的な成約よりも、オーナー対応、入居者対応、修繕手配、トラブル一次対応、委託先との連携、継続契約の維持など、長い時間軸のなかで信頼を蓄積する仕事が中心になります。そのため、この領域の管理職が行う1on1では、案件の派手さよりも、日々の対応品質、報連相の精度、優先順位の付け方、感情労働への負荷、クレーム後の立て直しといった論点を扱う必要があり、売買仲介と同じテンポや尺度で部下を見てしまうと、現場実態に合わない育成になってしまいます。

さらに、不動産開発や仕入れ、資産活用提案、法人営業などの機能では、社内外の多様な関係者との調整力、意思決定までの粘り強さ、リスク管理、法令や契約への理解、長期案件を前に進める構想力が求められるため、管理職には、目先の行動管理だけではなく、部下が中長期案件に対して粘り強く向き合える状態をつくる力が求められます。したがって、1on1においても、単週のタスク確認だけで終わるのではなく、案件全体の見立て、社内調整上の壁、本人の意思決定の迷いまで含めて扱う必要があります。

このように、同じ不動産会社の中であっても、仕事の構造が違えば、管理職の育成課題も、1on1で扱うべきテーマも変わります。にもかかわらず、多くの会社では「月に一回話す」「同じフォーマットで実施する」といった制度設計が先行し、現場に応じた対話テーマの設計が不十分なまま運用されるため、結果として1on1が形骸化しやすくなります。不動産業の経営で本当に必要なのは、制度の一律化ではなく、現場ごとの仕事特性に応じて、管理職がどのような対話を担うべきかを整理したうえで、1on1を業務と育成の接点として位置づけることです。

 

3. 1on1を導入する前に整理したい不動産会社の育成目的

1on1を導入する際に最も注意すべきなのは、「他社もやっているから始める」「離職が増えてきたのでとりあえず面談を増やす」といった曖昧な動機のまま制度化してしまうことです。1on1は、実施頻度や面談時間だけを整えても成果が出る仕組みではなく、何のために対話を行うのか、経営としてどのような人材状態をつくりたいのかを先に定めなければ、現場では単なる業務報告の延長として消化されてしまいます。

不動産業を展開する中小企業であれば、1on1の育成目的は、大きく分けて四つの視点から整理する必要があります。第一に、若手や中堅の早期戦力化を図りたいのか、第二に、離職防止と定着を強めたいのか、第三に、プレーヤー型管理職を育成型管理職へ転換したいのか、第四に、次世代幹部候補の視座形成を進めたいのかという視点です。これらは互いに関連しますが、主たる目的を明確にしないまま全部を盛り込もうとすると、管理職が1on1で何を優先して扱うべきかが曖昧になります。

たとえば、若手の早期戦力化が主目的であれば、1on1では行動量や案件数の確認だけではなく、顧客理解の深さ、提案時の迷い、仕事の基本動作の定着度、先輩同行後の学びの整理など、育成的な観点を厚く扱う必要があります。一方で、離職防止と定着が主目的であれば、本人の不安、業務負荷、上司との関係性、将来の見通し、評価への納得感、成長実感の有無といったテーマを丁寧に扱わなければ、面談が存在していても心理的な離脱は止められません。

また、管理職育成が主目的である場合には、部下との1on1を単なる現場運用として扱うのではなく、「管理職がどのような問いを立て、どのように話を受け止め、どのように支援行動へつなげたか」を評価と学習の対象にする必要があります。厚生労働省の資料では、1on1は部下の話を聞く時間として位置づけられており、業務報告の回収よりも、対話を通じた理解と支援が重視されています。したがって、不動産会社の経営として1on1を導入するのであれば、管理職に求める役割も「指示を出す人」から「部下の成長と成果を支援する人」へ定義し直すことが必要です。

さらに、中小企業庁が示す中小企業の定義に照らしても、不動産業を営む中小企業では、人材の厚みや役割分担が大企業ほど十分ではない場合が多く、一人の管理職が業績、採用、教育、現場支援を同時に担うことも珍しくありません。だからこそ、1on1の目的は抽象的な「コミュニケーション強化」では足りず、どの人材層に、どのような変化を起こし、結果として経営にどのような影響を与えたいのかまで、具体的に設計する必要があります。この目的設計ができてはじめて、1on1は人事施策ではなく経営施策になります。

 

4. 管理職育成が進まない不動産会社に共通する組織課題

不動産会社で管理職育成が思うように進まない背景には、個人の資質だけでは説明できない、組織構造上の課題がいくつも潜んでいます。特に中小企業では、事業の成長を支えてきた優秀な営業担当者や現場責任者を、そのまま管理職へ昇格させることが多く見られますが、このやり方自体が間違っているわけではないものの、昇格後に必要となる役割転換の支援が行われないまま現場に戻してしまうと、「自分でやった方が早い管理職」が量産されやすくなります。

この状態の問題は、本人の負荷が高まることだけではありません。部下の側から見ると、管理職が案件を巻き取ってしまうため、自分で考える機会も、失敗から学ぶ余地も、成長のための対話も減っていきます。その結果として、表面的には業務が回っているように見えても、組織の中で人材が育ちにくくなり、若手や中堅が将来像を描けずに離職しやすくなるため、長期的には経営基盤そのものが弱くなります。離職防止と定着の議論を進める際に、給与や採用だけではなく、管理職の育成力が問題になるのはこのためです。

また、管理職の役割定義が曖昧な会社では、何をもって良い管理職とみなすのかが共有されていないため、育成も評価も属人的になります。売上目標を達成していれば管理職として十分だと考える会社では、部下の教育、1on1の質、組織づくりへの貢献といった論点が後回しにされやすく、結果として、強いプレーヤーは残っても、強い組織は育ちません。不動産業の経営において継続的に業績を伸ばすには、個人の成果と組織の再現性を両立できる管理職像を明確にし、その前提のうえで育成する必要があります。

さらに、管理職自身が「対話の技術」を学ぶ機会を持たないまま1on1を任されていることも、大きな課題です。厚生労働省の資料では、1on1は部下の話を聞くことを主目的とした継続的な対話であると整理されていますが、現場ではつい、指導、注意、進捗確認、詰問に近い会話へと流れてしまうことがあります。これは管理職の意欲不足というよりも、1on1の位置づけや進め方が組織として定義されていないために起こる問題であり、制度導入だけで改善できるものではありません。

加えて、経営層や人事部門が1on1を「現場でやっておくべき施策」として丸投げしてしまうと、面談の質を高める支援も、実施状況の検証も、管理職同士の学習機会も生まれにくくなります。不動産業は、顧客対応、契約、法令、現場調整など、日々の仕事が多岐にわたるため、管理職は放っておけば目の前の案件処理を優先しがちです。したがって、1on1を定着させたいのであれば、経営として、管理職育成を業績向上のための基盤投資と位置づけ、対話の質を高める支援体制まで含めて設計することが不可欠です。

 

5. 1on1と通常面談・評価面談の違いを正しく理解する

不動産業の経営現場において1on1が形骸化しやすい最大の理由は、管理職や部下の双方が、1on1を通常の業務面談や人事評価面談の延長として理解してしまい、本来の目的である継続的な対話を通じた状態把握、成長支援、関係性の構築という役割を十分に分けて認識できていない点にあります。厚生労働省の資料では、1on1は上司と部下が定期的に行う対話の時間であり、従来の評価面談とは異なって、部下の話を聞くことを主目的とするコミュニケーション手法として整理されているため、まずこの違いを組織内で共通理解にすることが出発点になります。

通常面談や定例会議は、案件進捗、目標達成度、顧客対応、クレーム処理、契約予定、数字見込みなど、仕事を前に進めるための情報確認と意思決定が中心になりやすく、特に不動産業では案件単価が大きく、社内外の調整事項も多いため、どうしても上司が指示や確認を優先しやすくなります。しかし、1on1まで同じ運び方をしてしまうと、部下は「結局また数字の確認をされる時間だ」と受け止めやすくなり、本音や迷い、成長課題、将来不安、仕事上の負荷といった、離職防止や定着に直結する重要な情報が表に出なくなります。

一方で、人事評価面談は、一定期間の成果、行動、役割遂行、組織貢献を振り返り、評価や処遇に結び付けるための正式な場である以上、どうしても会社側の基準や期待が前面に出やすく、部下にとっては安心して話せる場というより、自分の結果や立ち位置を確認される場になりやすいです。そのため、評価面談と1on1を混同した運用をすると、部下は対話のたびに評価される感覚を持ちやすくなり、管理職もまた、聞くことより判断することを優先してしまうため、1on1本来の価値が失われます。

不動産業を展開する中小企業においては、管理職が売上責任、現場支援、採用協力、教育、トラブル対応まで多面的に担うことが多いため、時間効率を重視するあまり、あらゆる面談を一つにまとめたくなる気持ちは理解できます。しかし、経営として本当に重視すべきなのは、面談を減らすことではなく、それぞれの対話の役割を分けることであり、業務確認は業務確認として、評価は評価として、1on1は部下理解と育成支援の場として明確に切り分けるほうが、結果として人材の定着、管理職の育成、業績の安定という三つの成果を得やすくなります。

また、厚生労働省の事例資料では、1on1を継続するだけでは社員に飽きられる可能性があるため、質の担保が重要であり、「あなたのための時間です」といった前提を明確にすることが紹介されています。この考え方は不動産業にも極めて有効であり、管理職が「今日は数字の確認ではなく、あなたの状態や考えを整理する時間です」と明言するだけでも、部下の受け止め方は大きく変わります。 さらに、その姿勢が繰り返されることで、1on1は単なる面談制度ではなく、現場で働く人材が安心して考えを言語化できる仕組みとして定着しやすくなります。

したがって、不動産会社の経営層がまず取り組むべきことは、「1on1では何を扱い、何を扱わないのか」を明確にし、管理職に対して、評価や指示の場とは異なる対話の設計思想を共有することです。これができて初めて、1on1は予定表に入った面談ではなく、管理職育成と離職防止を支える実践の場となり、不動産業の経営を下支えする仕組みへと変わっていきます。

 

6. 不動産業界の管理職に必要な1on1スキルとは

不動産業における1on1を成果につなげるためには、管理職が単に面談の回数をこなすだけでは足りず、対話を通じて部下の状態を読み取り、仕事の解像度を高め、成長の方向性を整理し、必要に応じて支援行動へ結び付けるためのスキルを意識的に磨く必要があります。特に中小企業では、管理職が現場プレーヤーを兼ねながら部下育成も担うことが多いため、1on1スキルは「人事的な能力」ではなく、経営に直結するマネジメント能力として扱うべきです。

第一に必要なのは、部下の話を途中で結論づけずに受け止める傾聴力です。不動産業の仕事は、案件の成否、顧客との関係、オーナーや入居者対応、社内調整など、感情負荷を伴う場面が多く、部下自身も自分の状態をうまく整理できていないことがあります。そうしたときに、管理職がすぐ助言や指示に入ってしまうと、部下は「理解される前に処理された」と感じやすくなりますが、まず相手の話の背景や意図を丁寧に受け止めることができれば、1on1は問題解決だけではなく、信頼形成の場として機能し始めます。

第二に重要なのは、状況を広げる質問力です。部下が「最近うまくいっていません」と話したときに、「なぜできないのか」と詰めるのではなく、「どの場面でつまずいているのか」「自分では何が要因だと見ているのか」「以前うまくいったときとの違いは何か」といった問いを使い分けることで、部下は仕事の状況を自分の言葉で整理しやすくなります。不動産業の管理職にとって大切なのは、答えを先に持つことではなく、部下が自ら状況を理解し、次の行動を考えられるように支援することです。

第三に必要なのは、仕事の意味づけを支える整理力です。不動産業では、売買仲介であれば案件の進捗や提案の質、賃貸管理であれば対応品質や継続的信頼、開発や法人営業であれば中長期の調整力など、部門ごとに成果の見え方が異なります。したがって、管理職は、部下が日々行っている仕事を単なる作業としてではなく、「その行動が顧客満足、管理品質、再受注、紹介、業績安定にどうつながるのか」という文脈で整理して返す必要があり、この意味づけの力が弱いと、部下は目の前の忙しさの中で仕事の意義を見失いやすくなります。

第四に欠かせないのは、承認と期待を適切に伝える力です。不動産業の現場では、契約や数字のように目立つ成果だけが評価されやすい一方で、地道な顧客対応、クレーム後の立て直し、書類精度の向上、チーム内支援といった行動は見落とされやすいです。しかし、こうした積み重ねこそが定着と信頼の土台になりますから、管理職が1on1のなかで「何が良かったのか」「どのような価値があったのか」を具体的に言語化して返せるようになると、部下の成長実感と組織への納得感は大きく高まります。

さらに、1on1の質を安定させるうえでは、管理職自身が対話後の支援行動を設計する実行力も必要になります。部下の話を聞いて終わるだけでは、面談は気休めになってしまいますから、必要に応じて同行、案件レビュー、役割調整、学習機会の提供、他部署連携の支援など、次の一手へつなげることが重要です。厚生労働省の資料が示すように、1on1は継続的な対話である以上、その価値は一回の会話だけではなく、会話の後にどのような支援が積み重なるかによって決まると考えるべきです。

つまり、不動産業の管理職に必要な1on1スキルとは、話を聞く技術だけではなく、部下の仕事と感情を理解し、その理解を成長支援へ変換する一連の能力です。経営層がこの点を正しく捉え、1on1を単なるコミュニケーション施策ではなく、管理職教育の中核として位置づけることができれば、人材育成の質は着実に高まり、離職防止と業績向上の両立に近づいていきます。

 

7. 部下の本音を引き出す傾聴と質問の技術

1on1を不動産業の管理職育成に生かすうえで、最も差が出やすいのが、部下の本音をどこまで引き出せるかという点であり、この違いは、面談時間の長短よりも、管理職が傾聴と質問をどう使っているかによって決まります。部下が本音を話さないのは、必ずしも意欲が低いからではなく、「話しても理解されないのではないか」「結局は評価に響くのではないか」「正解を言わないといけないのではないか」と感じている場合が多いため、まず上司側が安心して話せる空気をつくることが前提になります。

不動産業の現場では、営業数字、反響対応、契約準備、クレーム処理、入退去対応、オーナー折衝など、日々の仕事が慌ただしく流れるため、上司と部下の会話も用件中心になりがちです。その流れのまま1on1に入ると、部下は「今日も報告の続きだろう」と受け取りやすく、本音よりも無難な説明を優先します。したがって、管理職は冒頭で、今日は評価や進捗確認ではなく、仕事の進め方や感じていることを整理する時間であることを丁寧に伝え、通常会話とは異なる場であることを意識的に示す必要があります。

傾聴の技術で重要なのは、相手の発言を遮らず、内容だけでなく感情も受け止めることです。たとえば部下が「最近、問い合わせ対応がしんどいです」と言ったときに、すぐ「件数が多いからだよね」と決めつけるのではなく、「どのあたりで特に負荷を感じているのか」「量の問題なのか、内容の問題なのか」「気持ちとしてはどんな状態なのか」と受け止めながら確かめていくことで、表面的な訴えの奥にある本当の課題が見えてきます。この過程を飛ばして助言に入ると、問題の根が残ったままになるため、同じ悩みが繰り返されやすくなります。

質問の技術では、相手を追い込む問いと、相手を開く問いを区別することが大切です。「なぜできなかったのか」「どうしてもっと早く言わなかったのか」という問いは、事実確認として必要な場面もありますが、1on1の冒頭から多用すると、防御的な受け答えを招きやすくなります。これに対して、「どの場面から難しさを感じ始めたのか」「本人としては何が一番引っかかっているのか」「うまくいくためにどの支援があると進めやすいのか」といった問いは、部下の思考を整理しながら、上司との共同検討へつなげやすくなります。

また、本音を引き出すためには、管理職が沈黙を急いで埋めないことも重要です。特に不動産業の営業系人材や現場系人材は、忙しさのなかで自分の考えを言葉にする習慣が十分でないことがあり、問われてすぐに整理された答えが出るとは限りません。ここで上司が焦って話し始めてしまうと、部下は考える余地を失いますが、数秒の沈黙を許容し、言い直しや言葉探しを待つことができれば、表面的ではない本音や迷いが出てくる可能性は高まります。

さらに、傾聴と質問は、単に優しく接するための技術ではなく、離職防止と定着のための実務でもあります。厚生労働省の資料が示すように、1on1は部下の話を聞くことを主目的とした対話であり、働きがいの向上や双方向コミュニケーションの質とも関係しています。不動産業のように、成果への圧力と対人負荷が同時にかかる仕事では、部下が「この上司は自分の仕事と状態を理解しようとしてくれる」と感じられるかどうかが、組織への信頼や将来の定着意向に大きく影響します。

したがって、管理職が身につけるべきなのは、うまい話し方ではなく、相手の仕事の現実と感情の動きを丁寧にたどりながら、必要な問いを通じて思考を前に進める力です。この力が備わると、1on1は単なる会話ではなく、人材育成、離職防止、現場改善、業績向上をつなぐ経営上の対話へと変わっていきます。

 

8. プレーヤー型管理職を育成型管理職へ転換する方法

不動産業を展開する中小企業において、1on1の導入効果を左右する最大の論点の一つは、優秀なプレーヤーとして成果を上げてきた管理職を、部下を通じて成果をつくる育成型管理職へどのように転換させるかという点にあります。多くの不動産会社では、売買仲介で契約を積み上げてきた人、賃貸管理で難案件を捌いてきた人、オーナー折衝に強い人が管理職へ昇格しますが、その成功体験が強いほど、「自分が動いた方が早い」「自分のやり方を真似させればよい」という発想に寄りやすく、結果として部下育成より案件処理を優先するマネジメントになりやすいです。

しかし、経営の観点から見ると、プレーヤー型管理職が自分の成果だけで組織を支えるやり方には限界があります。本人が不在になると現場が止まりやすく、若手や中堅は考える経験を積みにくくなり、管理職候補も育ちにくいため、短期的には数字を維持できても、中長期では人材の層が薄くなり、定着率や業績の安定性に問題が出やすくなります。不動産業のように案件の波や地域特性、顧客層の変化が大きい産業では、個人依存を減らし、組織として再現性を高めることが経営上の重要課題になります。

この転換を進める第一歩は、管理職の役割定義を明確に変えることです。すなわち、管理職は「自分で数字をつくる人」ではなく、「部下が成果を出せる状態をつくる人」であるという定義を、経営層が明確に示す必要があります。ここが曖昧なままでは、1on1をしていても管理職の頭の中では最終的に「どうすれば自分が早く処理できるか」が優先されてしまい、部下の成長を待つ姿勢が育ちません。育成型管理職への転換は、個人の意識改革だけに委ねるのではなく、会社として役割期待を言語化することから始めるべきです。

次に必要なのは、1on1を通じて「教える」より「考えさせる」比率を高めることです。プレーヤー型管理職は、自分の成功パターンをそのまま渡したくなりますが、不動産業の現場では、担当エリア、顧客層、案件難度、キャリア段階によって最適解が異なります。したがって、育成型管理職は、部下に正解を与える前に、本人の見立て、仮説、悩み、選択肢を引き出し、そのうえで必要な助言を行うべきであり、この順序を守ることで、部下の主体性と判断力が育ちやすくなります。

また、転換を定着させるには、管理職自身の評価指標にも変化が必要です。売上や部門業績だけで管理職を評価していると、どうしても即効性の高い案件介入や巻き取りが優先され、人材育成や1on1の質は後回しになります。これに対して、部下の定着、育成進捗、1on1の実施と質、チーム全体の再現性といった要素を評価の一部として組み込むことができれば、管理職は「育てることが自分の仕事である」という意識を持ちやすくなります。これは、不動産業の経営において、人材と業績を分けて考えないための重要な設計です。

さらに、経営層は、プレーヤー型管理職を一足飛びに変えようとするのではなく、段階的な学習を支援する必要があります。たとえば、1on1での問いの立て方、部下の話の受け止め方、助言を出すタイミング、支援行動への落とし込み方を、面談記録やケース共有を通じて振り返る場を持たせることで、管理職は「自分が育成型へ変わる感覚」を持ちやすくなります。厚生労働省の事例でも、1on1の質を担保する工夫が紹介されており、漫然と続けるのではなく、質を高める設計が必要であることが示されています。

最終的に、不動産会社が目指すべきなのは、成果を出せる個人に依存する組織ではなく、管理職が部下の育成を通じて成果を増幅できる組織です。1on1は、その転換を現場で実践する最も有効な手段の一つであり、プレーヤー型管理職を責めるための制度ではなく、育成型管理職へ進化させるための実践機会として位置づけることができれば、不動産業の経営はより安定し、人材の定着と将来の幹部育成にもつながっていきます。

 

9. 1on1で若手営業職・管理部門人材の定着率を高めるポイント

不動産業における離職防止と定着の問題を考える際には、採用数を増やすことだけに意識を向けるのではなく、入社後の若手や中堅が、日々の仕事のなかでどのような不安を抱え、どの段階で組織から心理的に離れていくのかを、管理職が継続的に把握できる仕組みを持つことが重要であり、その意味で1on1は、単なるコミュニケーションの場ではなく、人材の定着状況を早期に把握し、離職の芽を小さいうちに発見するための実務的な装置として位置づけるべきです。厚生労働省の働きがい向上に関する支援マニュアルでも、1on1は職場づくりや管理職の巻き込みと結び付く施策として扱われており、個人の悩みを聞く行為にとどまらず、組織の持続性を支える取り組みとして理解することができます。

特に若手営業職については、数字へのプレッシャー、商談の失敗体験、顧客からの厳しい反応、先輩や上司との比較、仕事の優先順位のつけ方への迷いなどが重なりやすく、表面上は元気に見えていても、内心では「自分はこの仕事に向いていないのではないか」「この会社で成長できるのか」といった不安を抱えていることが少なくありません。そのため、1on1では、成約件数や反響数の確認だけで終わらせるのではなく、最近の仕事で手応えを感じた場面、逆に自信を失った場面、先輩との違いとして感じていること、将来どのような営業人材になりたいと考えているかまでを丁寧に聞き出し、本人の状態を言語化させることが、離職防止と育成の両面で極めて大切になります。

また、賃貸管理、建物管理、事務、契約管理、顧客サポートなどの管理部門人材は、売買や仲介のように成果が目立ちやすい職種ではない一方で、クレーム対応、調整業務、書類精度、オーナー対応、社内連携など、組織運営を支える重要な仕事を担っています。しかし、こうした部門では、仕事の価値が日常のなかで見えにくくなりやすく、評価や称賛が不足すると、自分の役割が軽く扱われていると感じて定着が弱くなることがあります。したがって、管理職は1on1のなかで、本人の仕事が不動産会社全体の信頼、品質、収益基盤にどう結び付いているのかを具体的に伝え、目立ちにくい貢献を可視化する必要があります。

さらに、不動産業を展開する中小企業では、中小企業庁が示す中小企業者の範囲に該当する企業規模であればなおさら、一人ひとりの人材が占める役割が大きく、若手一人の離職であっても、現場負荷、採用コスト、教育コスト、顧客対応力、組織の士気にまで影響が及びやすくなります。そのため、定着対策を福利厚生や採用施策だけで考えるのではなく、直属の管理職が日常的にどれだけ部下の変化を把握し、必要な支援を差し出せるかという点まで含めて設計しなければ、本質的な離職防止にはつながりません。1on1が重要なのは、退職意向が表面化してから対応するのではなく、本人の迷いや疲弊が深刻化する前に、その兆候に気づけるからです。

加えて、厚生労働省の事例資料では、1on1を継続する際には「あなたのための時間です」といった前提を示し、質を担保することが重視されていますが、この考え方は若手定着の文脈で特に有効です。若手や中堅は、上司との面談が評価や注意の場であると感じると、本音よりも正解を言おうとしやすくなりますが、1on1が本人の成長と仕事理解のための時間であると実感できれば、悩みや迷いが出やすくなり、管理職側も支援の打ち手を取りやすくなります。つまり、定着率を高めるうえで必要なのは、頻度の多さだけではなく、部下が安心して話せる対話の質を継続的に保つことです。

したがって、不動産業の経営者や幹部層が1on1を定着施策として位置づけるのであれば、若手営業職には成果不安と成長実感の観点から、管理部門人材には役割認識と貢献実感の観点から、それぞれ異なる論点を丁寧に扱う必要があります。そして、管理職がそうした違いを理解したうえで対話を重ねられるようになれば、1on1は離職防止の場にとどまらず、組織に人材が定着しながら育っていく土台へと変わっていきます。

 

10. 1on1で業績管理と人材育成を両立させる進め方

不動産業の経営現場で1on1の導入が進みにくい理由の一つとして、「育成に時間を使うと業績管理が甘くなるのではないか」「数字を追わなければ成果は出ないのではないか」といった懸念が挙げられますが、実際には、業績管理と人材育成は対立する概念ではなく、適切に設計された1on1は、数字だけでは見えない課題を補足し、結果として業績の安定化と再現性向上に寄与する手法として機能します。厚生労働省の資料でも、1on1は継続的な対話として職場づくりや働きがい向上と関係づけられており、現場のパフォーマンスと切り離された施策ではありません。

たとえば、売買仲介や賃貸仲介の現場では、月次の数字だけを見ると、ある担当者が未達である理由を「行動量不足」と単純に捉えたくなりますが、実際には、反響から商談への転換率が低いのか、提案精度に課題があるのか、案件化後の追客が弱いのか、顧客属性との相性に悩んでいるのかによって、必要な支援は大きく変わります。1on1が有効なのは、まさにこの点であり、数字の確認そのものではなく、数字の背景にある行動、判断、迷い、習慣、準備不足を掘り下げることで、管理職が適切な打ち手を選べるようになるからです。つまり、1on1は業績管理を弱めるのではなく、数字の読み解き精度を高める役割を持ちます。

また、賃貸管理や建物管理のように、短期の売上数字だけで評価しにくい部門においては、業績管理と人材育成を切り分けすぎること自体が問題になりやすいです。なぜなら、対応品質の低下、報連相の遅れ、オーナーとの関係悪化、クレーム再発、更新率の鈍化といった現象は、目先の売上には直ちに表れなくても、長期的には会社の信頼や収益性を損なう可能性が高いためです。管理職が1on1を通じて、担当者の判断基準、対応の迷い、優先順位の置き方、業務負荷の偏りを把握できれば、未然防止の観点から現場の質を整えやすくなり、結果として中長期の業績安定に結び付きます。

業績管理と育成を両立させるうえで重要なのは、1on1の場で扱う順番を意識することです。すなわち、最初から「今月の数字が足りない」「なぜ未達なのか」と詰めるのではなく、まず本人が今どのように仕事を捉えているのか、何に手応えを感じ、どこで止まっているのかを整理させ、そのうえで、必要に応じて数値や行動目標へ接続することが有効です。この順序を守ることで、部下は責められている感覚よりも、整理を支援されている感覚を持ちやすくなり、管理職もまた、表面的な指示ではなく、本人に合った支援策を選びやすくなります。

さらに、経営者や幹部層の立場から見ると、1on1を現場任せにせず、業績との接続点を明確にすることも重要です。たとえば、1on1で扱うテーマを、成果、行動、学習、関係性、将来志向の五つ程度に整理し、管理職が毎回すべてを深掘りする必要はないものの、数字だけでも感情だけでも終わらないような設計にしておくと、育成と業績の両立がしやすくなります。厚生労働省の支援マニュアルが示すように、施策は現状確認、課題特定、効果検証まで含めて運用されるべきであり、1on1も同じく、実施そのものではなく、経営成果とのつながりを意識した設計が求められます。

したがって、不動産業で1on1を導入する際には、「育成か、業績か」という二者択一で考えるのではなく、「育成を通じて業績の再現性を高める」という視点に立つことが重要です。管理職が数字の背景を理解し、部下が自分の課題を自分の言葉で整理できるようになれば、短期的な指示待ちではなく、中長期的に成果を出し続ける人材が育ちやすくなり、その積み重ねが不動産会社の経営基盤を強くしていきます。

 

11. 不動産会社で起こりやすい1on1の失敗例と改善策

不動産会社で1on1を導入したものの、十分な成果につながらないケースを振り返ると、制度そのものに問題があるというより、運用の前提が曖昧なまま始まり、管理職が自分なりの解釈で実施してしまうことによって、1on1が本来の対話機能を失っている場合が多く見られます。特に中小企業では、忙しい現場のなかで新しい仕組みを入れる際、まず「やってみる」ことが優先されがちですが、1on1は継続的な対話である以上、最初の設計を誤ると、その誤りが習慣として定着しやすく、結果として「やっているのに効果がない」という状態に陥りやすくなります。

第一の失敗例は、1on1が業務報告の場に変質してしまうことです。不動産業では、契約予定、反響件数、案内件数、入居率、クレーム件数、修繕対応状況など、日々確認すべき数字や案件が多いため、管理職も部下も、面談時間を使って進捗確認をしたくなります。しかし、それでは通常会議との違いがなくなり、部下の状態や成長課題は見えにくくなります。改善策としては、1on1の冒頭で「今日は業務確認ではなく、仕事の進め方や状態を整理する時間である」と位置づけを明示し、必要があれば進捗確認は別の場で切り分けることが有効です。

第二の失敗例は、上司が話しすぎてしまい、部下が受け身になることです。プレーヤー型管理職ほど、自分の経験や成功パターンを伝えたい気持ちが強くなりやすく、部下が一言話しただけで、すぐに助言や指示へ進んでしまうことがあります。しかし、これでは部下の考えや悩みの全体像が出る前に会話が終わってしまい、育成よりも説教や指導に近い印象が残ります。改善のためには、管理職が「話す割合を減らす」のではなく、「相手が整理できるまで待つ」「質問で広げる」「要約して返す」といった対話技術を意識的に使うことが必要です。

第三の失敗例は、面談内容が抽象的で、次の支援行動につながらないことです。部下の悩みを聞いたとしても、「頑張ろう」「成長を期待している」といった抽象的な言葉だけで終わってしまうと、部下の側には支援された実感が残りにくく、管理職の側も何をフォローすべきか曖昧になります。厚生労働省の資料が示すように、1on1は継続的な対話であり、一回の面談で完結させるのではなく、次回までに何を試すのか、上司として何を支援するのかまで整理することが重要です。改善策としては、毎回の1on1を「状態把握」「課題整理」「次の一手」の三段階で終えるようにすると、面談が実務に結び付きやすくなります。

第四の失敗例は、管理職ごとに1on1の理解と質がばらつきすぎることです。ある上司は傾聴重視で行う一方、別の上司は詰問に近い面談を行っているような状態では、制度全体への信頼が下がり、部下の間にも「誰の下につくかで育成環境が違いすぎる」という不公平感が生まれます。不動産業は職種差が大きい一方で、会社として共有すべきマネジメント原則は必要ですから、改善策として、1on1の目的、扱うテーマ、避けるべき進め方、記録の取り方など、最低限の共通ルールを設けることが有効です。

そして第五の失敗例は、経営層が実施率だけを見て満足してしまうことです。1on1は、実施回数が多ければ成果が出るというものではなく、部下の理解が深まっているか、育成の質が上がっているか、離職防止や定着に寄与しているかまでを見なければ、本当に価値のある施策とはいえません。厚生労働省の支援マニュアルでも、施策には効果検証と見直しが必要であると整理されていますから、不動産会社でも、1on1を導入した後に、現場ヒアリングや管理職振り返りを通じて、運用改善を続ける姿勢が欠かせません。

したがって、不動産会社で1on1を成功させるためには、失敗を個人の力量不足として片づけるのではなく、制度設計、管理職教育、運用ルール、効果検証の四つの観点から継続的に見直すことが重要です。その積み重ねによって、1on1は「やらされる面談」ではなく、管理職育成と人材定着に効く経営実務へと成熟していきます。

 

12. 管理職ごとの1on1品質をそろえる仕組みづくり

不動産業において1on1を経営施策として機能させたいのであれば、優れた管理職だけが質の高い対話を行っている状態で満足するのではなく、会社全体として一定水準の1on1品質を実現できるよう、仕組みとして標準化を進める必要があります。なぜなら、中小企業では一人の管理職が与える影響が大きく、上司ごとの差がそのまま部下の定着、育成速度、仕事への納得感、さらには将来の管理職候補の育ち方にまで直結しやすいからです。つまり、1on1の品質差は、単なる個人差ではなく、組織の成長速度の差として現れます。

品質をそろえる第一歩は、1on1の目的を会社として明文化することです。不動産業では、売買、賃貸、管理、開発、事務など仕事の内容が多岐にわたるため、細かなテーマは現場ごとに異なって当然ですが、少なくとも「1on1は評価の場ではなく、部下理解と成長支援を行う継続的な対話である」という原則は全社で共通化する必要があります。厚生労働省の資料が示すように、1on1は部下の話を聞くことを主目的とするため、この原則が曖昧なままでは、管理職ごとの解釈の違いがそのまま運用品質のばらつきにつながります。

第二に必要なのは、管理職が最低限押さえるべき進め方を共通化することです。たとえば、冒頭では部下の最近の状態や仕事の実感を聞くこと、中盤では課題や迷いを整理すること、終盤では次の一手と上司の支援行動を確認すること、といった基本の流れを定めておけば、話題の自由度を保ちながらも、面談の質を一定水準に保ちやすくなります。これは台本の固定化ではなく、質を支える骨格づくりであり、特に1on1経験の浅い管理職にとって有効です。

第三に重要なのは、管理職同士が1on1のやり方を学び合う仕組みを持つことです。多くの不動産会社では、管理職は部下を指導する立場である一方、自分自身のマネジメントを振り返る場が十分ではありません。しかし、1on1の品質をそろえるには、どのような問いが有効だったのか、どの場面で話が詰まったのか、どのような支援行動が部下の成長につながったのかを、管理職同士で共有し、学習できる場が必要です。厚生労働省の事例資料でも、質の担保に取り組むことが重要とされており、継続だけでなく改善を前提にした運用が求められます。

第四に、経営層や人事部門は、1on1の実施有無だけではなく、その質を確認する観点を持つべきです。もちろん、面談内容を細かく監視することは望ましくありませんが、部下アンケート、管理職振り返り、離職率や異動希望の変化、育成進捗の実感などを通じて、対話が本当に機能しているかを把握することは可能です。厚生労働省の支援マニュアルが施策の効果検証を重視しているように、1on1もまた、実施したら終わりではなく、運用状態を見ながら改善する経営課題として扱う必要があります。

最後に、品質標準化を進める際には、現場特性への配慮を忘れてはなりません。不動産業は、営業系と管理系で仕事の構造が異なり、扱う悩みや成長テーマも違うため、全員に同じ話題を強制するやり方では逆に形骸化を招きます。したがって、会社としては原則と骨格をそろえつつ、職種や役割に応じて対話テーマの重点を変えられる柔軟性を持たせることが重要です。この「共通ルールと現場適応の両立」ができたとき、1on1は管理職個人の能力に依存する制度ではなく、不動産会社全体の育成文化として根付き始めます。

 

13. 1on1の内容を見える化し育成成果を検証する方法

不動産業で1on1を管理職育成の中核施策として機能させるためには、対話の実施そのものに満足するのではなく、そこで何が話され、どのような支援が行われ、結果として人材の育成や定着、業績の安定にどのような変化が生じたのかを、一定の粒度で見える化しながら検証する仕組みを持つことが不可欠です。なぜなら、1on1は本来、部下の話を聞くことを主目的とした継続的な対話である一方、組織として運用する以上、その価値を経営が把握できなければ、忙しい現場のなかで優先順位が下がりやすく、やがて形式だけが残る可能性が高いからです。

見える化という言葉をここで使う場合、それは面談内容を細かく監視することではなく、管理職と部下の対話が、どのような育成テーマを扱い、どのような支援行動へつながっているのかを、過度に個人情報へ踏み込まずに把握できる状態を指します。たとえば、不動産業の現場であれば、売買仲介では商談化や提案精度、賃貸管理では対応品質や優先順位、管理部門では役割理解や社内連携など、部門ごとに主な対話テーマを整理し、面談後に簡潔な記録を残すことで、個別面談の記憶頼みではない運用に近づけることができます。こうした記録が蓄積されると、管理職自身も、前回どのような課題を扱い、今回どのような進展があったのかを振り返りやすくなり、1on1がその場限りの会話で終わりにくくなります。

また、育成成果の検証においては、数値だけを見るのではなく、短期、中期、長期の三層で変化を捉えることが重要です。短期的には、1on1の実施率、部下の納得感、上司への相談しやすさ、課題整理の進み具合などが確認対象になりますし、中期的には、若手や中堅の離職防止、定着、仕事への主体性、案件処理の精度、管理職の支援行動の質などが見えてきます。さらに長期的には、次世代管理職候補の育成速度、部門間の育成格差、組織全体の業績再現性といった経営的な変化にまでつながっていくため、1on1の効果を「すぐ売上が増えたか」だけで判断するのは適切ではありません。

加えて、厚生労働省の支援マニュアルでは、職場施策を実施する際には、現状把握、課題特定、取組実施、効果検証という流れで進めることが重要だと整理されていますが、この考え方は1on1の運用にもそのまま当てはまります。つまり、不動産会社の経営としては、1on1を導入した後に、どの管理職が実施できているかだけでなく、部下が安心して話せているか、育成テーマが整理されているか、上司の支援行動が変わっているかを確認し、必要に応じて面談設計や管理職教育を見直す必要があります。検証がなければ、1on1は努力目標にとどまりますが、検証があれば、経営改善サイクルの一部として機能し始めます。

さらに、中小企業庁が示す中小企業の定義を踏まえると、不動産業を営む中小企業では、人数規模が限られるからこそ、一人の管理職や一人の若手の変化が組織全体に与える影響が大きくなります。そのため、大企業のように複雑な評価システムを持たなくても、1on1の記録、月次の振り返り、部下の所感、定着状況の確認といった比較的簡潔な仕組みを整えるだけでも、経営判断の質は大きく高まります。見える化の目的は管理ではなく、育成の継続性を高めることであると捉えることが、実務上は特に重要です。

したがって、不動産業の経営者や幹部層が1on1を本気で活用したいのであれば、対話の実施だけではなく、その内容と支援の積み重ねを無理なく見える化し、育成成果を時間軸で検証する仕組みまで持つべきです。そこまで設計して初めて、1on1は「やっている施策」から「経営に効く施策」へと変わり、人材育成と業績向上を支える再現性の高い仕組みへ近づいていきます。

 

14. 経営者・幹部が押さえるべき1on1定着の支援体制

不動産業の現場で1on1を継続的に機能させるためには、管理職の努力や意識にすべてを委ねるのではなく、経営者や幹部、人事部門が一体となって、実施しやすく、学びやすく、改善しやすい支援体制を整えることが必要です。特に中小企業では、現場責任者が売上責任と顧客対応、部下育成、採用協力まで多面的に担っていることが多いため、経営が「1on1は重要だ」と言うだけでは、目先の案件やトラブル対応に押されて後回しになりやすく、制度としては存在していても現場で定着しないという事態が起こりやすくなります。

まず経営者や幹部が押さえるべきなのは、1on1の導入目的を明確に語ることです。不動産業における1on1は、単なるコミュニケーション改善策ではなく、離職防止、定着、管理職育成、業績再現性の向上を支える経営施策であるという位置づけを、管理職にも部下にも繰り返し伝える必要があります。厚生労働省の資料では、1on1は部下の話を聞くことを主目的とした継続的な対話として整理されており、評価面談や業務報告とは異なる役割を持つことが示されていますが、この考え方を会社の言葉に置き換えて共有しなければ、現場では従来の面談文化の延長として解釈されてしまいます。

次に必要なのは、管理職向けの教育機会を制度的に確保することです。1on1は、面談の予定を入れれば自然に上手くなるものではなく、傾聴、質問、要約、承認、課題整理、支援設計といった対話技術を、管理職自身が学び続けることで初めて質が高まります。厚生労働省の事例資料では、実効性のある1on1を行うために管理職向け研修が実施されていることや、1on1の重要性理解とスキル向上が支援されていることが示されており、不動産会社においても、管理職教育を1on1運用の前提に置く発想が重要です。

さらに、支援体制のなかには、管理職同士の振り返りや相談の場も含めるべきです。不動産業の現場では、売買、賃貸、管理、事務、法人営業などで扱うテーマが異なり、1on1の難しさも現場ごとに変わるため、管理職が孤立したまま自己流で進めると、品質差が広がりやすくなります。ここで、定期的に事例共有や面談の振り返りを行い、「どのような問いが有効だったか」「どのような場面で話が進みにくかったか」を持ち寄る仕組みがあれば、管理職の学習速度は高まり、制度定着も進みやすくなります。支援体制とは、ルールを押し付けることではなく、管理職が育ち続けられる環境をつくることだと考えるべきです。

また、経営者や幹部は、1on1に必要な時間を正式な業務として扱う姿勢を持たなければなりません。不動産業では、案件優先の文化が強い会社ほど、「今は忙しいから来月でよい」「数字が厳しいからまず営業活動を優先しよう」となりがちですが、その積み重ねが管理職育成の遅れや若手の離職につながります。だからこそ、1on1を余剰時間でやるものではなく、人材と業績を支える基盤業務として捉え、予定確保、実施確認、振り返りまで含めて運用する必要があります。これは、目先の忙しさに流されず、中長期の経営基盤を守る判断でもあります。

最後に、支援体制を整えるうえで重要なのは、経営層自身が1on1の価値を現場に示し続けることです。管理職にだけ対話を求めながら、経営層が管理職との対話を持たない会社では、制度の本気度は伝わりにくくなります。逆に、幹部が管理職との対話機会を持ち、管理職の悩みや育成課題を把握しながら支援している会社では、1on1は単なる人事制度ではなく、組織全体の対話文化として根づきやすくなります。不動産会社で1on1を定着させるとは、面談制度を広げることではなく、経営から現場まで対話を通じた育成責任をつないでいくことにほかなりません。

 

15. 不動産会社が1on1を管理職育成の文化として根付かせるには

1on1を不動産会社の管理職育成に本当に生かしたいのであれば、一定期間の施策として実施するだけでは不十分であり、日々の仕事のなかに自然に組み込まれた育成文化として根づかせるところまで視野に入れる必要があります。文化という言葉は抽象的に聞こえるかもしれませんが、ここでは「上司は部下の話を聞き、部下の成長を支援するのが当然である」「部下は困りごとや迷いを早い段階で相談できる」「管理職は自分の経験を押し付けるのではなく、相手の成長を促す役割を担う」といった行動原則が、特別な努力をしなくても実践される状態を指します。

不動産業は、商談、契約、管理、調整、クレーム、法令対応など、日々の業務密度が高く、どうしても短期成果や目先の問題解決に意識が向きやすい産業です。そのため、1on1も導入初期には「必要性は分かるが後回しになりやすい施策」として扱われがちですが、中小企業庁の不動産業分野に係る指針が示すように、社会環境の変化に対応しながら経営力を高めるには、人材育成、業務効率化、需要把握、技術活用といった視点を統合して進める必要があります。したがって、1on1を文化として根づかせることは、単なる人事施策ではなく、変化に強い不動産経営をつくることと本質的に同じ方向を向いています。

文化定着のために第一に必要なのは、経営層が1on1を「やるべき制度」としてではなく、「会社がどのような管理職を育てたいか」を示す象徴的な行動として位置づけることです。すなわち、数字だけで部下を動かす管理職ではなく、対話を通じて人材を育て、離職防止と定着を進め、結果として業績を安定させる管理職を増やしたいという意思を、採用、評価、会議、育成の場で一貫して示す必要があります。この一貫性がなければ、現場では「結局は数字さえ出せばよい」と受け止められ、1on1は表面的な取組で終わってしまいます。

第二に重要なのは、1on1を特別なイベントにしないことです。月に一度だけ形だけ行うのではなく、日常の仕事のなかで「相手の状態を見て対話する」「前回の話を踏まえて支援する」「小さな成長を承認する」といった行動が積み重なることで、部下は1on1を単なる面談予定ではなく、上司との継続的な関係性として受け止めやすくなります。厚生労働省の資料でも、1on1は日常的かつ継続的なコミュニケーション手法とされており、この継続性が文化定着の鍵になります。つまり、文化とは制度の存在ではなく、日常の言動の反復によって生まれるものです。

第三に、文化として根づかせるには、管理職自身が1on1を通じて成長を実感できることが欠かせません。部下の変化が見えず、面談だけが増えて負担感が強い状態では、管理職は制度に前向きになれませんが、対話を通じて部下の主体性が高まった、離職の兆候に早く気づけた、案件の停滞要因を把握できた、チームの雰囲気が安定したといった手応えが積み重なれば、1on1は管理職自身にとっても有益な仕事だと認識されます。したがって、経営としては、1on1によって生まれた良い変化を管理職同士で共有し、成功体験を言語化することも重要になります。

最終的に、不動産会社が1on1を文化として定着させるとは、部下のための制度を増やすことではなく、管理職という役割の中身を変えていくことです。自分で成果を出す人から、人を通じて成果を生み出す人へ、指示を出す人から、相手の成長を支える人へ、問題が起きてから動く人から、変化の兆しを早く捉える人へと、管理職像を更新していくことができれば、1on1は不動産業の経営において、離職防止、定着、育成、業績向上を支える強い土台になっていきます。

 

16. 結論・まとめ

不動産業を展開する中小企業において、1on1は単なる面談制度ではなく、管理職育成、人材の定着、離職防止、業績の再現性向上を同時に支える経営施策として捉えるべきです。不動産業は、住宅やビル、商業施設の開発、流通、管理を通じて国民生活や経済活動を支える重要産業であり、社会環境の変化や人材不足への対応が求められるなかで、従来の属人的な育成だけでは組織の持続的成長が難しくなっています。だからこそ、継続的な対話を通じて部下の状態を把握し、成長課題を整理し、支援行動へつなげる1on1の価値は、これまで以上に高まっています。

また、1on1を成功させるには、制度を導入するだけでは足りず、評価面談との違いを明確にし、管理職に必要な傾聴や質問の技術を育て、若手営業職や管理部門人材の定着につながる対話を積み重ね、業績管理と育成を対立させずに設計する必要があります。さらに、失敗例を個人の問題として片づけるのではなく、共通ルール、学習機会、見える化、支援体制、効果検証まで含めて整えることで、1on1は管理職ごとの個人技から、会社全体の育成文化へと変わっていきます。

中小企業庁が示す中小企業の定義に照らしても、不動産業を営む中小企業では、一人の管理職、一人の若手、一つのチームの変化が組織全体へ与える影響が大きいため、管理職の育成力はそのまま経営力に直結しやすいといえます。

したがって、経営者や幹部が1on1を現場任せの施策にせず、自社の管理職像と結び付けて推進し続けることができれば、人材が育ち、人材が定着し、結果として業績が安定するという好循環が生まれやすくなります。不動産業の未来を支えるのは物件や仕組みだけではなく、人を育てられる管理職であり、その育成を支える実践手法として、1on1は今後ますます重要な位置を占めていくはずです。 

 

17. 参考資料一覧

中小企業庁|中小企業・小規模企業者の定義
中小企業庁|不動産業分野に係る経営力向上に関する指針
国土交通省|令和7年版国土交通白書「不動産業の動向と施策」
厚生労働省|働きがいのある職場づくりのための支援マニュアル
厚生労働省|働きがいのある職場づくりのための支援ハンドブック

 

18. 船井総研ヒューマンキャピタルコンサルティングの不動産業界向け1on1・離職防止・人材定着・管理職育成コンサルティング

船井総研ヒューマンキャピタルコンサルティングでは、不動産会社の経営者・幹部層・人事責任者向けに、不動産会社の人材採用・人材募集・離職防止・人材定着・戦力化などに関する無料相談やお問い合わせを受付しております。この機会にぜひ下記詳細をご確認の上、お申し込みください。

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