【社長コラム】人と組織は、理屈では動かない——シンガポール視察から
2026.06.19
【社長コラム】人と組織は、理屈では動かない——シンガポール視察から
株式会社 船井総研ヒューマンキャピタルコンサルティング
代表取締役社長 村田 泰子
皆様、こんにちは。
船井総研ヒューマンキャピタルコンサルティングの村田泰子です。
いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。
5月、アジア最大級のHRカンファレンス「HR Tech Asia」に合わせて、シンガポールのAWSやNTTデータなどを視察してきました。
「大企業の話でしょう」と思われるかもしれません。
でも、持ち帰った考え方のうち二つは、社員の顔が見える規模の会社でこそ、早く効くものでした。
今回はそれを、現場の言葉に置き換えてお届けします。
一つ目は、人ではなく「仕事の中身」を見る、という考え方です。
営業の山田さん(仮名)の一日を、思い浮かべてみてください。
見積書の作成、顧客への電話、現場への訪問、帰社後の日報——。
「山田さんをAIに置き換えられるか?」
答えは、もちろんノーです。
取引先の社長の機嫌や現場の空気を読めるのは、山田さんだけですから。
では、問いを変えてみます。
「山田さんの仕事のうち、見積書のたたき台と日報の清書だけなら?」
これなら、今のAIで十分手が届きます。
人を丸ごと入れ替えるのではなく、仕事を一度ばらして、AIに渡せる部分と、その人にしかできない部分を仕分けする。
視察先で教わったのは、この問いの立て方でした。
一人採用できないなら、今いる社員の「人にしかできない時間」を増やす。
山田さんが事務作業から解放された時間で、もう一軒お客様を回れたら——。
採用一人分に近い効果が、今いる社員から生まれます。
二つ目は、「それは、あとで元に戻せる決定か?」という問いです。
Amazonに深く根づいた、ものごとの決め方です。
創業者ジェフ・ベゾス氏の「株主への手紙」でも話題になりました。
決定には、二種類ある。
後戻りできない決定と、あとで元に戻せる決定。
戻せない決定は、時間をかけて慎重に。
でも、世の中の決定の大半は戻せる決定で、こちらは素早く決めていい。
組織が大きくなるほど、戻せる決定にまで重たい会議を重ねるようになる。
そして会社は遅くなり、実験をしなくなっていく——。
ベゾス氏は手紙の中で、そう警告しています。
今回のAWS視察でも、現地の社員が当たり前のようにこの問いを口にしていました。
創業者の考え方が、ここまで文化として浸透している。
理念を額に飾るのではなく、毎日の判断の物差しにする。
浸透とは、こういうことなのだと感銘を受けました。
これを日々の経営に当てはめると、こうなります。
戻せない決定は、設備投資や本社の移転。これは慎重に、数字を揃えて。
戻せる決定は、朝礼のやり方、求人票の文言、日報のスマホ入力化。これは、まず試す。
ダメなら来月、戻せばいいのです。
ところが多くの会社では、これが逆になっています。
戻せない大きな投資は社長の勘で即決するのに、戻せる小さな変更には「前例がない」と何カ月も腰が重い。
本当は、戻せる変更こそ、明日から試すべきなのです。
帰国後、国内で組織変革の実務家の方々のお話を伺う機会がありました。
そこでも、同じ知恵が語られていました。
変革は、いきなり大きく狙うと頓挫する。
だからまず、確実にやり切れる小さな変更から始める。
会議の資料は、A4一枚まで。
「部長」「課長」ではなく、「さん」で呼び合う。
金曜だけは、全員が定時で帰る。
そして、うまくいったら社長が全力で褒める。
「うちも変われるんだ」という手応えが積み重なって、初めて組織は大きな変化に挑める体になります。
シンガポールの最先端と、日本の変革の現場。
言葉は違っても、行き着く先は同じでした。
人と組織は、理屈では動かない。
安心して試せる小ささと、変われたという実感が要る——。
社員の顔が全員見える会社は、このサイクルを大企業よりずっと速く回せます。
これは、そういう会社だけが持つ強みです。
皆様の会社の「山田さん」の仕事で、AIに渡せるものは何でしょうか。
そして、明日試してみる「戻せる変更」は、どれにしますか。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
【追伸】
HR Tech Asia inシンガポールで視察の話を2026年6月15日(月)人的資本経営研究会、
当社取締役 執行役員の山根よりお話ししました。
<人的資本経営研究会:詳細は下記リンク先からご確認ください。>
⇒ https://www.hr-force.co.jp/jinteki-shihon-kenkyukai
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